カーボンフットプリント: 美の炭素コストを定量化する
購買決定が地球環境に与える影響を意識する消費者が増えています。最近の気候変動による気象災害を受けて、より持続可能な選択を重視する傾向が強まっています。最近発表されたミンテルの報告によると、アメリカの成人の54%が、近年の気象災害をきっかけに、持続可能な選択をする決意をさらに強めたと回答しています[1]。さらに、消費者の約3分の2が、購入するブランドに対して環境問題への取り組みを期待していることが分かりました。
このような気候変動に伴う課題の解決において、企業が主導的な役割を果たすべきだという消費者の明確な声を受け、美容業界は新しく興味深い方法でその期待に応えています。
 
                美容業界はどのように持続可能な未来に適応しているのか?
イノベーションや製品の継続的な進化を通じて『コンシャスビューティー』を体現するブランドは、意識の高い消費者の要求に応えるため、有利な立場にあります。
『グリーン』や『クリーン』な製品は、ブランドの目的や価値観を重視し、それに基づいた行動を取る新たな潮流に置き換わりつつあります。この潮流が消費者の理想や信条に共鳴し、深い共感を呼んでいます。  
消費者の気候変動への懸念が高まる中、一部のブランドは、気候適応型製品を通して、多くの人が経験している記録的な気温など過酷な環境条件に対応する新しい消費者ニーズに応えています。これらの製品は、空気の質の悪化や気温上昇などによって生じる美容の悩みへの解決策を提供することを目指し、気候変動がもたらす新たな課題に立ち向かっています。 
変わりゆく世界への対応を目指す新しい製品カテゴリーに加えて、パーソナルケアおよび美容業界は、データと情報を活用し、現在の基準値から二酸化炭素排出量をどのように削減できるかを模索しています。原材料の生産から成分の製造、処方の加工、さらに包装、輸送、最終的な廃棄に至るまで、業界のカーボンフットプリントは非常に大きな影響を与えています[2]  。
しかしカーボンフットプリントを削減する前に、まずは正確な測定を行い、特に対策が必要なホットスポットと重点エリアの特定が必要です。これは難しい場合もありますが、この課題に取り組むための出発点を提供してくれるよりアクセスしやすいツールやデータポイントがあります。
製品のカーボンフットプリントとは?
カーボンフットプリントは、企業の活動だけでなく、サプライヤー、製品またはサービスの製造や使用に関与するその他の関係者の活動も含まれます。
こうした背景から、サプライチェーンにおける透明性や、持続可能性を高めた成分の特定は、ブランドが環境への影響を低減するための真摯な取り組みを示す手段となり得ます。  
 
イギリスのパーソナルケアおよび美容商品の購入者の65%が[3] 、ブランドに対し製品が環境に与える影響についてさらなる透明性を求めています。しかし、それをどのように実現できるのでしょうか?
製品のカーボンフットプリントは、環境影響を考える際の重要なピースとなり得ます。それは製品の『炭素コスト』の特定に使われ、基本的に製品の生産と使用に関連する全ての活動から生じる炭素排出量を測定します。すべてのものやすべての人がフットプリントを残しています。しかし、一度フットプリントの影響を把握すると、排出量とその結果生じる影響を削減するための戦略を導入することができます。これは、カーボンハンドプリントと呼ばれるフットプリントを相殺するための回復的・再生的なプラスの影響を取り入れることで可能です。
製品のカーボンフットプリントの測定方法
製品のカーボンフットプリントを測定するには、製品のライフサイクル全体を通じて排出され、消費される温室効果ガスの量を測定し、そのカーボンインパクトを評価します。これには、製品ライフの始まりである原材料の抽出(システム境界の「ゆりかご」とも呼ばれます)から、製品の製造過程を経て、ビジネスの手を離れる時点(ゲート)、さらには使用後や寿命を迎えた後の最終処分(墓場)に至るまでのすべての過程が含まれます。 
しかし、パーソナルケア業界や化学業界では、独自の方法論は確立されていません。国際的に評価の高い国際標準化機構(ISO)には、製品のカーボンフットプリントを算定し報告するための原則、要件、およびガイドラインを規定した基準(ISO 14067:2018[4])があります。これに加えて、温室効果ガス(GHG)プロトコルが排出量分析の際にそれぞれの業界が考慮するための方法論に基づく指針を提供しています。
Together for Sustainability[5](TfS ―化学品のサプライチェーンにおける環境、社会、ガバナンスパフォーマンスの国際基準を提供する、54社の化学企業による共同イニシアチブおよびグローバルネットワーク―) も、『化学産業における製品のカーボンフットプリント(CFP)算定ガイドライン』[6]を発表しています。この指針は、炭素に関するISO基準およびGHGプロトコルに準拠しています[7]。
クローダでは、約1,550の製品コードについて製品カーボンフットプリントを算出し、顧客に透明性とサポートを提供しています。この計算では『ゆりかごからゲートまで』の排出量を考慮しており、スコープ1、スコープ2、スコープ3の上流排出量データを含んでいます。炭素排出量がどのようにスコープに分類され、それぞれが何を意味するのかについては、『クローダビューティの脱炭素化への道』をご覧ください。
クローダが採用している製品カーボンフットプリントの算出方法は、TfSのガイダンスに準拠しています。つまり、私たちは化学産業向けのベストプラクティスを活用して製品のカーボンフットプリントを測定しているのです。
製品カーボンフットプリントの限界
製品カーボンフットプリントは、製品ポートフォリオのカーボンインパクトを評価するうえで非常に価値のあるものとなり得ます。また、脱炭素戦略の実施をサポートすることもできますが、限界もあります。
主に、製品カーボンフットプリントを算出するために必要なデータの収集と分析には、膨大な時間とリソースが必要となる場合があります。また、一度算出しても、単一で広く受け入れられた方法論が存在しないため、異なるブランド間で製品を比較することが難しくなります。
さらに、製品のカーボンフットプリントは、製品の環境への影響の一側面にしか対応していません。カーボンフットプリントの算出は持続可能性への重要な第一歩であり、ブランドが成分を選択する際に環境への影響が少ない選択肢を検討するサポートができます。しかしその一方で、持続可能性の問題を過度に単純化してしまう可能性もあります。製品カーボンフットプリントをより広範な分析の一部として組み込み、取り入れる追加的な手法やツールを活用することで、この課題へ対応することが可能です。
ブランドにとってのメリット
持続可能性は今やパーソナルケア消費者にとって当たり前の期待となっています。環境への影響を戦略に取り入れていないブランドは、遅れを取るリスクがあります。
製品のカーボンフットプリントを理解し活用することは、企業が自社製品ポートフォリオの気候への影響を定量化するうえで役立ちます。また、脱炭素化への取り組みを伝える際に裏付けとなる、具体的かつ測定可能な目標を設定することもできます。さらに、脱炭素化への道のりにおいて、確かな進展を促します。
このことに加えて製品カーボンフットプリントは、サプライヤーやより広範なサプライチェーンに対する深いインサイトと透明性を提供し、購買決定において買い手により高い自信を与えます。 
クローダビューティの顧客は、営業担当者に製品のカーボンフットプリントステートメントをリクエストできます。またはオンラインのお問い合わせフォームからリクエストを送信することも可能です。
私たちの継続的な取り組み
クローダビューティでは、顧客に対する透明性の向上に常に取り組んでいます。また、サプライヤーを丁寧に評価することで、製品の環境への影響に関する詳細なデータの提供を可能にしています。豊富なインサイトとデータを活用することで、ブランドやメーカーはより適切な成分を選択し、フットプリントを改善した処方を工夫することができます。
クローダビューティは、インパクト・ジャーニーを進める中で、業界全体の持続可能性に向けたインパクトレポートとインサイトの継続的な進化に取り組んでいます。これにより、製品のカーボンフットプリントを改善するための変化を実行することができます。私たちは2050年までにネットゼロを達成することを約束しています。製品のカーボンフットプリントデータは、中間目標と測定基準の設定に役立ちます。これによって、私たちの進捗を確かなものにし、この目標達成に向けた計画やプログラムを適宜調整することができます。この取り組みは、お客様の持続可能性と脱炭素化への道のりをサポートすることに貢献します。
参考文献:
[1] 2025 Beauty & Personal Care Trends - Mintel[2] Greenhouse-Gloss-beauty-NZIU-report.pdf
[3] Beauty and Personal Care Retailing – UK – 2024 - Topline Questions - Mintel
[4] ISO 14067:2018
[5] Home - TFS Initiative (tfs-initiative.com)
[6] TfS_PCF_guidelines_2024_EN.pdf
[7] Homepage | GHG Protocol